写真展レポート「はじめまして、放散虫」
2022年4月1日
2020年8月5日、写真展「はじめまして、放散虫」の設営のため、静岡県長泉町にあるクレマチスの丘を訪れました。
早朝、家を出て静岡へ。富士山は雲の中でしたが、道すがらフィールドなどに寄り道したら、カワセミにも出会えて幸先よいスタートです。
「はじめまして、放散虫」展のきっかけは、ヴァンジ彫刻庭園美術館の副館長、岡野晃子さんが、国立科学博物館のミュージアムショップで、絵本『ほうさんちゅう』を手に取ってくださったことでした。放散虫のふしぎな形に「なにこれ!」と驚き、魅せられたそうです。
そのころすでに、夏の展示のテーマをレイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』にすることを決めていたそうで、その関連企画として、放散虫の展示を思いつかれたとのこと。美術館では、現代の美術作家たちが自然との出会いやかかわり方を表現した作品を展示し、放散虫は自然が見せてくれるふしぎさに気づくきっかけと位置づけ、電子顕微鏡写真を展示するというご提案でした。放散虫は「センス・オブ・ワンダー=神秘さやふしぎさに目を見はる感性」を刺激すると、ご自身が体験されたわけですね。
ご連絡いただいたすぐあとに、国立科学博物館の「絵本でめぐる生命の旅」展に『ほうさんちゅう』も取りあげていただいていたので、展示をご案内し、絵本を監修してくださった松岡篤先生のトークイベントにもご参加願ったところ、クレマチスの丘での展示日程も翌年の夏休み期間にしようと、とんとん拍子に決まりました。
クレマチスの丘で写真展をすることになったと友人、知人に知らせると、大半が「いいところだよね」「だいすきな場所で、何度も行ってる」と口をそろえていっていました。クレマチスの丘、どんなところでしょう? 気分も高揚してきます。
設営予定より少し早めに到着したので、庭園に入れていただきました。お天気もよく、心地よい風が吹き抜けます。広々とした庭園には、イタリアの現代具象彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの彫刻が、植物や美術館の建物と調和するように配置され、クレマチスやバラが咲き乱れていました。ひっそりと咲くセンニンソウを見つけて、センニンソウもクレマチスのなかまなんだ、と知りました。クレマチスの丘には、ヴァンジ彫刻庭園美術館が、駿河平自然遊歩道を挟んで山側には、ベルナール・ビュフェ美術館、井上靖文学館もあり、一日かけてじっくりめぐりたい場所です。
そんなわけで、うっかりゆっくり散策してしまいましたが、さあ、設営です。会場は、クレマチスの丘NOHARA BOOKS。ヴァンジ彫刻庭園美術館のミュージアムショップも兼ねていて、展示に関連する書籍をはじめ、美術書、写真集を中心に、自然のこと、自然によりそうていねいなくらしのことなど、興味をそそるテーマの本をたくさん取りあつかっています。なんとも落ち着くよい本屋さんです。
ギャラリースペースは、入り口正面の壁面にあり、店内に入ってすぐ左の棚と、その奥の棚も、展示用に空けてくださいました。学芸員の渡川智子さんが、博物館のように棚を飾ろうと提案くださって、写真だけでなく、放散虫のいろいろを学べる空間となりました。
新型コロナウイルス感染症が広まって、多くの方々の生活が脅かされ、5月、6月は「はじめまして、放散虫」展も、この状況ではあきらめないといけないかなと、思っていました。でも、自粛要請期間を経て、なんとか開催にこぎ着けることができ、例年にくらべて短い夏休みでしたが、たくさんの方に放散虫をご覧いただくことができました。
松岡先生への質問コーナーも設けたところ、放散虫を目にした驚きをそのままぶつけたような質問がたくさん寄せられました。また、9月の連休には、放散虫を光学顕微鏡で見ていただくイベントも開催できました。小さなお子さんたちが、お父様、お母様を何度も引っぱって、「もう一度見る!」といったすがたもあり、ふしぎなこと、はじめて見ることへ心をおどらせる感性が引き出された瞬間に立ち会えたような気持ちになって、とてもうれしかったです。
今回は、はじめての美術館での展示だったので、放散虫をまったくご存知ない方の目にも触れたことになります。岡野さんのもくろみ通り、みなさん、目を見はってくださったのではないかと想像すると、わくわくします。コロナがなければ、松岡先生のトークイベントなども企画していたのですが、コロナがあるなかでも、ヴァンジ彫刻庭園美術館、NOHARA BOOKSのスタッフのかたがたといっしょに知恵をしぼって、よい展示につくりあげることができたと思っています。
絵本『ほうさんちゅう』からはじまった、「はじめまして、放散虫」展。「ふたたび、放散虫」「またまた、放散虫」……とつづくといいなぁ、なんて夢想もしています。